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​文芸創作
お悩み相談コーナー

コトノハ文学教室では​、文芸創作に励んでいる方や文学を学びたいという方を一生懸命にサポートしています。

このコーナーでは、コトノハ文学教室の講師陣が受講生の創作に関するお悩みにお答えしました。

本校に通うと、以下のような文芸創作に対する知恵、方法論が学べるという一例になります。

野村喜和夫先生への

質問と回答

Q

 詩作における、比喩の作り方について教えてください。

A

 比喩と言ってもいろいろありますが、ここではその代表的存在である隠喩について説明してみます。作り方というより、原理的な話になりますけど。

人間の場合もそうですけど、言葉の価値は、あるいは美は、他のどんな言葉と関係しているかによって決まります。たとえば、「これ、走り書きのノートです」と言われても面白くもなんともありませんが、「これ、走り書きの炎です」と隠喩的にひねられると(「炎」は「走り書き」の隠喩です)、がぜん、「走り書き」も「炎」もそれ以上の何かに変容するかのようです。このような相互作用こそポエジーと呼びたいですね。

言い換えると、このとき、「走り書き」と「炎」は、現実では別々に存在しているにすぎないのに、想像力の働きによって結ばれ、新しい関係の世界に入った、ということになるでしょうか。

昭和の大詩人西脇順三郎も、「新しい関係を発見することが詩作の目的である。ポエジイということは新しい関係を発見するよろこびの感情である」と言いました。

隠喩はたんなるテクニックではないのです。繰り返しになりますが、私たちは世界をどのように見ているのでしょうか。鳥が飛んでいる。葦がそよいでいる。そして私たちの心の動き。それらはばらばらに存在しているのでしょうか。物理的な世界としてならそうでしょうが、ひとたび私たちの想像力が働くと、それらは互いに呼び交し、繋がりあって、見えないネットワークをかたちづくるようになります。そう、夜空の星々が星座を構成するように。それがあるからこそ芭蕉は、おのれの漂泊の心を鳥に託して、「この秋は何で年寄る雲に鳥」と詠むことができたのでしょうし、またパスカルは、「人間は一本のそよぐ葦にすぎない」と断じることができたのでしょう。これをアナロジー(類比)の感覚といい、詩的表現の基本、レトリック的にいえば隠喩の組成をもたらします。隠喩とは、かんたんにいえば、意味の類似性による言葉の結合です。たとえば「悲しみは時の翼に乗って去る」と言うとき、私たちは時間の迅速性と飛び去る鳥の翼とを類似性においてダブルイメージしているわけです。それが隠喩の働きです。

ただし、「時の翼」という隠喩自体はかなり陳腐です。死んだ隠喩といってもいいかもしれません。詩における隠喩は、「ユリイカ(われ発見せり)!」と叫びたくなるような、生きた隠喩、創造的な隠喩でなければなりません。そこに冒険としての詩の意味もあるのです。

浜江順子先生への

質問と回答

 

Q

詩作において、詩の完成をどこで知るのですか?

A

それは主観的な問題でもあり、同時に客観的

な問題でもあります。詩を書く速さというのは、昔、荒川洋治さんに伺ったのですが、すごく速い人と、すごく遅い人の二つのタイプがあるということで、どちらが良い悪いということではないということで、私など速い方の部類に入ると思われます。速い時は昔、超忙しかった時、15分で書いて、さっと見直してして、送っていました。なぜかその詩をいま見ると,発想がおもしろいのです。

速い遅いは作品の完成度にある意味関係がな

いといえるでしょう。

さて、作品の完成をどこで知るかということですが、

推敲を重ねていると、耳の向こうで「カチッ」と音がします。つまり、それが完成です。それ以上、書きすぎても、書き足りなくてもいけません。詩をどこで終わらせるか、見極める力を持つことも、詩人としての力の一つです。

「カチッ」という音は詩を書き続けているうちに、私の場合、ある時からするようになりました。

 

Q小説の文体のリズムは重要な要素と聞きましたが?

 

A

小説において、文体のリズムはとても重要な

ものです。特に、最近では宇佐見りんや井戸

川射子など、独自の文体のリズムを持つ小説

家にも注目が集まり、それらは重要な要素となっています。小説の文体のリズムはその小説のテーマとも結びつき、大きな役割を果たしています。 

そして、それらは小説家の重要な個性として存在します。

村上春樹は、文章のリズムについて、こう言っています。「僕は思うんだけど、創作の文章にせよ、翻訳の文章にせよ、文章にとっていちばん大事なのは、たぶんリズムなんですよね。」と。

小説のリズムは文体ともからみあい、小説の根幹となる要素を構成しています。小説を書く時、その小説の文体のリズムを考えていくことはきわめて重要となります。読者にとってもリズムのある文体は魅力的です。

小説を書く時、推敲することにより自分の書いている小説のリズムをチェックすることができます。音読していくと、より的確に文章のリズムを見ることができます。

中上紀先生への

質問と回答

Q

小説の書き出しをどう書いていいかわかりません。書き出しのテクニックを教えてください。またどんなパターンのものがあるかも知りたいです

A

小説の書き出しの数行だけを読んで、「面白くなさそう」と、読むのをやめてしまったことはありませんか?

続きを読みたくなるような書き出しが理想です。ポイントは「インパクト」と「イメージ」の2つの「イ」だと思います。

 

  • インパクトがある。

・パッと目を引くような書き出し文は、それだけで心が掴まれ、続きが読みたくなります。

  • イメージが広がる。

・その一文を読んだだけで、想像が広がるような、わかりやすさがあると、読み手を次の文章に自然に導くことが出来ます。

・逆に冒頭から混乱する作品は、イメージがしにくく、小説を途中で投げ出されてしまう可能性が高いです。

 

小説は、一行目を書くまでは可能性は無限大です。一行目、二行目と書いていくにつれて、小説の方向が決まってきます。そのため、冒頭は小説の重要なカギとなります。

 また冒頭は、書き手の企みを投入する場所であり、そしてその企みに引っ張り込むための想像力を引き出すための場所でもあります。

 

 以上を踏まえながら、書き出しを考えていきますが、書き出しにもいくつかタイプがありますので、紹介します。(名前などは決まっているわけではありません)

 

道しるべタイプ・・・本筋や中心となる出来事の前提となる事柄が提示されます。物語読解に必要な鍵となります。

昔語りタイプ・・・時、場所、登場人物について最初に語られます。

風景描写タイプ・・・舞台となる場所の風景が描写されます。

事件提示タイプ・・・読者の意表を突きます。

作者の前座タイプ・・・作者の態度や口上、説明ではじまります。

筋書き提示タイプ・・・全体の筋書きを最初に述べます。

会話タイプ・・・会話から始まります。

 

いずれにしても、魅力のある一行目、一段落目は、読者を惹きつけて離さないような、そんな文章です。既存の小説の例を少し紹介します。

 

<魅力的な書き出し集>

禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。 (「鼻」芥川龍之介) 

きょう、ママンが死んだ。 (「異邦人」カミュ) 

「おい地獄さ行ぐんだで!」 (「蟹工船」小林多喜二)

罰がなければ、逃げるたのしみもない。 (「砂の女」安部公房) 

僕が六歳だったときのことだ。 (「星の王子さま」サン=テグジュペリ) 

ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。 (「変身」フランツ・カフカ) 

 

 

読み手を小説の中に誘い込む、素晴らしい書き出し、冒頭を、考えていきましょう!

代表者・南野一紀への

質問と回答

Q

仕事や雑事に追われて、創作について考える時間がありません。それでも、創作したいです。良い方法があれば、教えてください。 

A

仕事や雑事について、日々思っていることを作品にぶつけてみるのはありだと思います。それは不満でも、逃避願望でも、前向きな気持ちでもいいのですが、創作の種はどこかにきっとあるはずです。昨今の日本文学では、現実や日常や一般的な認識の価値が高まっていますので、より有効だと思います。

あるいは、社会生活で培ったサービス精神やおもねりをエンタメとして発揮するのも方法です。

「サービスやおもねりは仕事でもうやっているのだから、文学はサービスでやりたくない。自分の考える美学や正義を貫きたい」というのも、スタンスとして素晴らしいものだと思います。その場合は茨の道を進むことになりますが、せっかくなら一生一度きりの人生、後悔しない表現をやっていただきたいと私は思います。

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